貧血

貧血ってどんな病気?

血液中の「ヘモグロビン(Hb)」の量が減って足りなくなった状態をいい、貧血は血液中のヘモグロビンの濃度で判断されます。
血液は血漿という「液体成分」と、赤血球・白血球・血小板等の「血球成分」から出来ています。ヘモグロビンとは赤血球に含まれる赤い色素のことで、これが酸素を運搬して二酸化炭素を回収する働きをしています。赤血球が造られるためには鉄と蛋白質が必要となります。

鉄欠乏性貧血はどうして起こるの?

貧血の患者さんの約7割が「鉄欠乏性貧血」です。体内の鉄が不足した為にヘモグロビンが順調に造られなくなるケースです。鉄が不足する原因の主なものは次の通りです。

  1. 鉄の摂取量が足りない:偏食により食事から摂る鉄が不足している場合。
  2. 鉄の排出が多い:月経や病気(胃・十二指腸潰瘍、胃腸ポリープや癌、痔等)による出血で鉄が排出されて不足する場合、又、妊娠期も赤ちゃんの赤血球を造る為に、たくさんの鉄が必要で、鉄不足が起こり易くなります。

ヘモグロビンが不足するとどうなるの?

ヘモグロビン(Hb)は体のすみずみまで酸素を運ぶという、大切な働きをします。ヘモグロビンが不足すると、さまざまな細胞組織で酸素が欠乏した状態になり、体は代償反応を起こして生命を維持しようとします。動悸や息切れを例にすると、減少したヘモグロビンの酸素の運搬を最大限に生かすために、体は血液の循環を速くして大量の血液を流そうとします。そのため、心臓の拍動が速くなり、動悸が起こります。同様に多量の酸素を体に取り込もうと呼吸を速めるために、息切れが起こるのです。

貧血の症状

主な症状は、疲れやすい・食欲不振・頭痛・動悸や息切れ・顔色が悪い・めまいや立ちくらみ、朝起き難い、首や肩がこる、夏場だるい、です。
また、鉄欠乏貧血では貧血症状が進むと次のような症状が現われることがあります。舌の表面がツルツルになり物を食べるとしみる、口角炎が起こる、食道粘膜が萎縮して物が飲み込み難くなる、枝毛が増えたり、髪が抜け易くなる。爪がスプーン状に反り返る、などです。

貧血と低血圧の違い

低血圧と貧血は、一部の症状が似ているため混同されやすいが、全く別の病気です。脳貧血も貧血と混同されやすい病気の一つです。

貧血 血液中の赤血球又はヘモグロビンが減少した状態のこと。
低血圧 血圧は体内各所で異なり、血圧の高い方から低い方に血液が流れることで血液循環がスムースに行われる。血圧が低くなると、重力に反して血液を送らなくてはいけない脳や、体の末梢への血流が悪くなり、全身の倦怠感、立ちくらみ、めまい、冷え症、肩こり、動悸、食欲不振などの自覚症状がでる。
脳貧血 脳への血液供給が一時的に不足してめまい、立ちくらみといった症状を起こすこと。一過性の脳虚血症で貧血とは根本的に異なる。

なぜ若い女性に貧血が多いのか?

成人女性に貧血が多いのは、次のような原因があげられます。

  • 無理なダイエット:食事から摂る鉄の不足。更に糖質や脂肪の摂取を極端に減らすことで、蛋白質がエネルギー源として消費され貧血を助長する。
  • 偏った食生活:朝食抜きや外食、インスタント食品、加工食品に頼った食生活により、栄養バランスが崩れて貧血の原因となる。
  • 月経による出血:月経以外にも、子宮筋腫や子宮内膜症などが原因で出血量が増えるケースもある。

鉄欠乏性貧血以外にどんな貧血があるのか?

  • 再生不良性貧血:血球成分を造るもとの細胞が減少し赤血球他全ての血球が十分に造られなくなる病気。
  • 悪性貧血:巨赤芽球貧血で、ビタミンB12の欠乏が原因で中高年者に多く記憶障害などの精神症状が現われる。
  • 溶血性貧血:赤血球が壊れ易くまた寿命が短くなるために起こる。黄疸がでて脾臓が腫れるのが特徴。
  • 二次性貧血:腎臓病や肝硬変、甲状腺、関節リウマチ、急性白血病、胃腸の癌など慢性疾患が原因で起こる。

どんな検査で貧血が発見されるの?

貧血の有無と種類を知るために次のような検査をします。

  • 血液中の赤血球数(RBC):1立方ミリメートル中に成人男子で450万~550万個。成人女子で400万~500万個が正常。
  • ヘモグロビン濃度(Hb):成人男子で14グラム/デシリットル以下、成人女子で12グラム/デシリットル以下は要注意。
  • ヘマトクリット(Ht):血液中に占める赤血球数の容積の割合のことで、成人男子で41~51%、成人女子で37~40%が正常。

検査によって貧血と診断されたら、更に原因となる病気の有無を調べ、それが発見されればその治療を行います。
この他、貯蔵鉄がどんどん失われているなど、潜在的な貧血を調べるための検査もあります。例えば、血清中のフェリチンは鉄と結合出来るタンパク。これが少ないと、貯蔵鉄も少ないことになります。また、血清鉄は正常値は血清100mlあたり80~120μgだが鉄欠乏性貧血では必ずこの値が減少しています。

貧血の治療

鉄欠乏性貧血の場合、まず食事療法を指導し、それで改善されない場合や重症の貧血の場合、鉄剤を処方して鉄を補給します。鉄剤を服用している間も食生活の改善を続けます。次の検査時に数値が改善しても、通常、3ケ月は鉄剤の服用を続け、さしあたり使われる鉄の補給と同時に体が蓄える「貯金」となる鉄を補給します。体内にしっかり鉄を蓄えることで再発を予防するので、勝手に服用を中止しないようにしましょう。
更に大切なのは、その原因を調べることです。胃腸の検査や婦人科の検査が必要です。

貧血を予防するには?

栄養バランスのよい食事を摂ることが大切。その他に注意したいのが次のポイントです。

  1. 特に良質の蛋白質と鉄分が不足しないように(蛋白質不足は、赤血球を造る能力の低下を招く)。
  2. 食事はよくかんでゆっくり食べる(胃酸が分泌され鉄などの消化吸収が高まる)。
  3. 多食、過食に注意する(胃腸に負担がかかると、消化吸収能力が低下、アルコールの過飲にも注意)。
  4. ストレスを貯めないようにする(胃腸はストレスの影響を受け易い臓器。食欲不振や胃の機能低下を招かないように)。

貧血を予防・改善する栄養素

鉄の吸収を高めたり、貧血を予防・改善する栄養素は、ビタミンC、B6、B12葉酸などです。主に下記のような食材から摂ることができます。

  • ビタミンC:ブロッコリー、こまつな、れんこん、パセリ、きゃべつ、キウイ、いちご、オレンジ、かき、など
  • ビタミンB6:玄米、大豆、ほうれんそう、バナナ、ピーナッツなど。
  • ビタミンB12:レバー、ニシン、サバ、カキ、チーズ、卵など。
  • 葉酸:カキ、レバー、卵黄、さつまいも、牛乳、ほうれんそう、など。

健康な人が食事で摂る鉄の量は1日10mg程度ですが、体に吸収されるのは、その10%前後。しかも毎日1mg前後の鉄が排出されるので、収支バランスを保つためには毎日の食事で確実に鉄を摂取することが大切です。

鉄を上手に摂るには?

食品中の鉄は体内で吸収されやすい「ヘム鉄」と吸収されにくい「非ヘム鉄」があります。
鉄を効率よく摂るにはヘム鉄を多く含む食品を食べるとよいでしょう。ヘム鉄は牛肉、豚肉、鶏肉、魚類に多く含まれています。非ヘム鉄はほうれんそう、貝類、卵黄、ひじきなどに多く含まれています。
但し、ヘム鉄の多い食品ばかりを摂ればよいわけではなく、野菜など非ヘム鉄の多い食品も鉄分の吸収を高める食品(動物性蛋白質やビタミンC)と一緒に摂ることで効率よく鉄を摂ることができるので、組み合わせに気を配るようにしましょう。

鉄剤を飲む時の注意点

  1. 鉄が胃腸の粘膜を刺激するため、鉄剤を服用する患者さんの約10%に、嘔気、むかつき、下痢などの副作用が出るケースがあります。その場合、本来空腹時に飲む鉄剤を胃の刺激を和らげるため食後の服用に変える、鉄剤の服用量を減らすなど、医師はこのような対処をします。
  2. 鉄剤の服用は、体内に貯蔵される鉄の量が十分になるまで続けないと意味がありません。貧血の自覚症状がなくなっても、貯蔵鉄の量が十分になったとは言えないので勝手に飲むのをやめないように気をつけましょう。

「鉄剤服用中は、お茶を飲んではいけないの? 」との質問をよく受けます。それは緑茶やコーヒー、紅茶に含まれるタンニンが、鉄と結合して吸収を妨げるためです。しかし、飲み過ぎない限り心配はいりません。日常的に食後やティータイム毎に 1~2杯飲む程度なら問題はありません。医師が指示し鉄剤の用量を守って服用する限り、お茶を無理に我慢する必要はありません。